悪阻(つわり)の期間と軽減
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「食べては吐くの繰り返しです、ムカムカして食べられるものがないんです」

悪阻(つわり)に苦しまれている女性からご相談をいただき、ご自宅に伺いました。
現在、妊娠9週目。
第三子のご懐妊ですが、今回は特に悪阻(つわり)がきついとのこと。

少しでも赤ちゃんに吸収されれば
と、吐くのを覚悟で食べ物を口にされているそうです。
体重も7Kg以上減ってしまわれ、起居動作もしんどそうに見受けられました。
悪阻(つわり)は病気ではありません
悪阻(つわり)とは

- 妊娠嘔吐(にんしんおうと)とも呼ばれ、病気ではありません。
- 妊娠初期の 気持ち悪さ・吐き気・食物の好みの変化 をいいます。
- 概ね、妊娠5~6週頃から 始まり、ほとんどの方は 16週頃まで には治まります。
- 長引いて悪化したり、妊娠以外の要因が重なると、妊娠悪阻(おそ)に進行することも。

悪阻(つわり)の原因は、はっきりと解明されていません。
軽い症状を含めると半数以上の妊婦さんにみられます。
悪阻(つわり)がきつくなる理由
妊娠中に増える女性ホルモンによるもの

妊娠を維持する為に、妊娠中には女性ホルモンが大量に分泌されます。
妊娠中に増える女性ホルモン
- エストロゲン(卵胞ホルモン)・・・子宮内膜を厚くし、赤ちゃんに居心地の良いベッドを用意します。
- プロゲステロン(黄体ホルモン)・・・子宮内膜を潤し、赤ちゃんが寝ていたくなる布団を維持します。
- ヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピン ・・・絨毛とは胎盤の事です。胎盤から分泌され、妊娠黄体や受精卵を守り、妊娠を維持します。

近年では、胎盤から分泌される ヒト絨毛性ゴナドトロピン が悪阻(つわり)の程度と関わりがあるのでは? と考えられています。
ヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピンとは

妊娠初期から生成され、妊娠5~6週頃からは胎盤から分泌される女性ホルモンです。
妊娠の維持に深く関わっています。
ゴナドトロピンの役割
- 妊娠黄体を守り、妊娠の維持に必要な 黄体ホルモン が途切れないようにします。
- 母親の免疫で受精卵が殺されないよう 免疫的寛容(受精卵を敵とみなさない反応)に関わります。
- 受精して2週目には分泌され尿に排出されますので 妊娠検査薬 にも使われます。
胎盤が作られる妊娠5~6週頃とは、悪阻(つわり)が始まるタイミングでもあります。
胎盤から分泌される ヒト絨毛性ゴナドトロピン の量が、悪阻(つわり)の程度に関わるのでは? という研究が進められています。

ゴナドトロピンが増える(つわりがきつくなる)のは、どのような時ですか?

精神的な影響 によっても増えてしまうんですね。

ストレスや不安により、妊娠を維持する 黄体ホルモンの量が減少 することが分かっています。
強いストレスや不安感などが、原因の特定できない機能性不妊症や流産を起こすこともあるのです。

ストレスや不安の中でも 妊娠が途切れないように ゴナドトロピンが増えるのですね。
妊娠ケトーシス (低血糖)によるもの

お腹の赤ちゃんは、お母さんの食べた糖質をそのまま吸収することは苦手です。
お母さんに蓄えられた脂肪を分解して作られる ケトン体 などをエネルギーにして成長します。

赤ちゃんに充分な栄養を与えるためには、母体は 脂肪が分解されやすい状態 である必要があります。
そのため、妊娠中は飢餓に近い 低血糖の状態(妊娠ケトーシス)であろうとするのです。
なぜ妊娠ケトーシスが起こるの?

- まだ食料の確保が不安定だった時代(狩猟を中心とした時代)の習性に由来すると考えられています。
- 当時の人々は、食料の備蓄もなく、常に飢餓の危険性と背中合わせでした。
- 蓄えた脂肪や筋肉を分解しながら生き延びる(異化反応といいます)、そのような習性が身についていったのです。
この妊娠ケトーシスにより、血糖値が低下した状態が悪阻(つわり)の原因ではないか? との研究も有力視されています。
起床直後や空腹時に悪阻(つわり)が強まる方は、このタイプの可能性があります。
個人的な想像で恐縮ですが

母体はケトーシスの状態になる為に、あえて
- 邪魔になる糖質の拒絶
- 食べ物の好みの変化
を起こさせているのでは?と思うことがあります(学術的な根拠はありません)。
母体に蓄えられた脂肪を分解する為には、糖質などの豊富な栄養素は邪魔になるからです。

母体は、お腹の赤ちゃんに合わせて 原始の頃の習性に戻ろうとしている ようにも思えるのです。
悪阻(おそ)に進行したら
悪阻(おそ)の症状

- 食べられなくなる
異化(栄養が入ってこないので脂肪や筋肉を分解してエネルギーに変える)が起こり、これにより体重は激減し、体は酸性になっていきます。これを ケトアシドーシス といいます。 - 嘔吐
水を飲んでも吐くようになると、脱水症状が起こったり、体内のミネラル・バランスの異常をきたします。それにより体の様々な機能が上手に働かなくなります。 - 肝機能障害
軽い黄疸などが出ます。 - 腎機能障害
食べられないので慢性的な低血糖な状態ですので、血圧も低下します。それにより腎臓への血流が減少し腎機能の低下が起こります(蛋白尿が出ることがあります)。 - 精神症状
重篤な場合は、母子ともに生命の危険性が高まりますので、クリニックでの診断や輸液処置などが必要になります。
悪阻(つわり)の辛さを軽減するために

母体の弱まりを補い、悪阻(つわり)を軽減
臨床上は、
- 吐きたくなるので何も食べたくないタイプ
- 空腹だと気持ち悪くなるので食べ続けたほうが楽というタイプ
が見られます。
どちらのタイプでも、悪阻(つわり)がきつくなる背景には、
- 溜まった疲労やストレス
- 冷え体質(冷え習慣)
- 妊娠前までの飲食・睡眠の不摂生
- 出産や育児、大病などによる消耗
- ケガ・事故・手術などのダメージ
- 不安、焦り、憤り、無力感といった心の問題
などによる、その方の バイタリティ(生命力の働き)の弱まり があると捉えます。

弱められた生命力の働きを補うことで、悪阻(つわり)の影響を最小限にするのです。
16週まで逃げ切るのです!
気持ち悪さ・吐き気の改善には

気持ち悪さ・吐き気の改善ポイントとしては、
- 腕や手首周りに出現する陥凹(へこみ)
- 体の正中線上に出る太い筋(すじ)
- みぞおち付近に出る硬さ
などがあります。

妊娠される以前から、

自律神経失調気味だった。
胃腸の冷えや疲れがあった。
そのような場合は、おへその周辺に動悸 が出現することもあります。

これらの指標が緩んだり、消失していく過程で、悪阻(つわり)の症状が改善されていくことも多いのです。
「なんだか双子のような気がするんですけど」

施術を終え、帰り支度の最中に、そう話しかけられました。
多胎によりゴナドトロピンの量が増え、悪阻(つわり)がきつくなっている可能性も考えられます。
母の勘、案外的中しているかも知れません。

16週までには、ほとんどの方が治まりますよ。
帰り際の何気ない会話でしたが、

そのうち治まると思えば、なんだか気が楽になりました。
と仰っていただき、 その時の明るい笑顔が印象に残った帰り道でした。
ブログ文責 橋本昌周